退職代行とは、労働者本人が第三者を通して会社に退職の意思を伝えるサービスです。労働者には退職の自由が認められています。
しかし、会社によっては退職を認めてくれないケースも多々あります。強引に引き留めたり、先延ばしにされたり、会社によっては話し合いすらさせてくれない会社も存在します。 退職代行サービスは、辞めたくても辞めれない方のために弁護士や労働組合など会社と交渉権を持つ組織が間に入ることで、退職をスムーズにしています。
ですが然るべき資格や権利を持っている人が仲介しても、時にトラブルが起きる時があります。 この記事では、当組合が行う退職代行サポート「ニチロー」での事例などを交えながら、退職代行利用時におけるトラブルや失敗する恐れのあるケースなどを解説していきます。

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退職代行を利用してトラブルが起こる3つの要因
退職代行サービス自体、認知度が上がっている反面、サービスの内容については不透明な部分が多いかと思います。
利用を考えた時に、トラブルなど不安点はたくさん出てくると思います。当組合はこれまで退職サポートをさせていただいた中で、「会社」「依頼者」「退職代行サービス」の3者いずれかがトラブルを引き起こす事例に遭遇しました。
それら事例について要因別で解説していきます。
要因1:会社
退社代行に理解が無かったり、感情的になりやすい経営者の場合、突然会社を辞められたという腹いせに嫌がらせを行うケースが多いです。傾向としては経営者が高圧的であったり、ガテン系の上司、会社だとトラブルは起きやすくなります。
そもそも、そういった会社だからこそ退職代行を使わざるを得ない状況になっているのだと思います。
確かにトラブルと言えばトラブルなのですが、横暴な態度を取る会社様に対しては、法に則った然るべき対処を私たちはさせていただきますので、退職代行が失敗するといったことはあり得ません。
- 給料を支払ってくれない
- 有給を取らせてくれない
- 退職手続きに必要な書類を送ってくれない
- 自宅まで押しかけてくる
- 私物を返却してくれない
要因2: 依頼者
依頼者様が問題を抱えているケースとしては「会社に借金がある」「重大な規約違反を犯している」といった、労働者本人に悪質な問題があったときには、トラブルに繋がってしまいます。
私たち、退職代行サービスはどうしても依頼者本人からの話しか聞けません。後ろめたい話を私たちには一切せずに、退職連絡を会社にした際に発覚するといったこともあります。
内容次第では、そのままご相談をお断りすることもあります。結果としては退職代行失敗と言うことになりますが、依頼者様にはその辺りを綺麗にしてからご依頼いただけると、問題なく退職することが可能です。
- 会社・上司にお金を借りている
- 重大な規約違反を犯している
- 無断欠勤をしていた
- 返却物を返さない
要因3: 退職代行
退職代行を使ったのに退職ができなかったというご相談を頂く時もございます。名前を出すのは難しいですが民間で行っている退職代行サービスだと、対応が不十分で退職手続きを最後までしてくれない会社もあるようです。
労働組合や弁護士など法的に会社と交渉が可能なサービスでないと、退職手続きを適正に最後まで行うことが難しいケースも出てきます。格安で退職代行を利用できるので、利用者の方からしたら大変お得ですが、料金に足しいてサービスの質が伴わないケースもございます。
- 退職連絡だけで終わりにしてしまう
- 会社からの言伝を依頼者に伝えずに終わらせてしまう
退職代行で起こりやすい9つのトラブル
退職代行ニチローでも、過去にトラブルが起きた事例があります。トラブルにより退職できなかったというケースはありませんが、やはり退職までにスムーズに行かなったケースがほとんどです。
先ほどの事例をさらに深掘りした内容を9つまとめてあります。私たちがどのように対応したのかまで解説しています。
1.退職代行を使っても退職を認めない
退職代行を利用しても退職を認めないと高圧的な態度を取られる企業も中には存在します。ですが、民法第627条第1項では「退職の自由」がすべての労働者に認められており、退職の申し入れから2週間経過することにより、正式な退職となります。
第六百二十七条 1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
引用元:民法第672条
企業側が退職を認めないとしても、内容証明郵便で会社に直接送ってしまえば、退職の申し入れとして有効で2週間の経過を待って、退職が成立するわけです。
内容証明郵便とは
誰がいつ発送したのか?相手がいつ受け取ったのかを郵便局が証明するサービス。これにより「退職届を受け取っていない」といったトラブルも回避することができます。
少々強引な方法のため、当組合では極力話し合いの元、会社側に合意を貰った上で退職手続きを進めるようにしています。そちらの方がお互い気持ちよく進むのでより、トラブルを減らすことが可能です。
2.規定の給与が支払われない
退職を認めない以外にも給料を支払わないといったケースもあります。こちらも労働基準法第24条において「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とあり、働いた分の賃金は必ず支払わなければいけないと定められています。
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
引用元:労働基準法第24条
法律に基づいて、給与の支払いを促すことができるため対応は問題無くできます。企業側も一時的な感情で代表の方がそう言っているだけなので、しっかりと対応すれば、支払いに応じてくれます。
労働組合や弁護士であれば、給与の支払いに関する交渉が可能なため退職のやり取りが円滑に進まないだけの問題で、依頼者には何ら影響はしません。
問題のある民間運営の退職代行であると、会社の言い分を依頼者に伝えず退職完了とし、給料が支払われず、結局本人で対応をするという事例もあるようです。
3.有給消化が認められない
未払い給与と似たような内容で、退職時には有給を取得させないと言ってくる会社もあります。
有給取得は労働基準法第39条で労働者の権利として保障されているので、退職代行を利用したからといって、有給消化を拒否することは難しいです。
第三十九条 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
引用元:労働基準法第39条
記載されている「正常な運営を妨げる場合」は退職時には関係がないので、退職時に有給取得には関係のない話になってきます。よって、有給を認めないといったことも、トラブルと言えばトラブルですが、退職代行側で問題無く対応できる内容となっています。
4.退職後に必要な書類が送られてこない
仮に問題なく退職できたとしても、離職票などの退職に伴う書類が会社から送られてこないというケースもあります。
退職したことを証明するための離職票や雇用保険被保険者証などは失業保険の手続きに必要です。これら必要書類が無ければ、失業保険が受給できなくなることもあるため、労働者本人としては非常に困る問題です。
当組合であれば、退職後のアフターサポートも実施しておりますので退職後に関わる手続き等も対応させていただいております。
5.会社の上司が家まで来てしまう
過去に1件だけですが、相談者様の家まで会社の上司が来てしまうという事例もありました。家まで来るというのは、依頼者様も精神が休まらない状況なので、非常に厄介なトラブルです。
対応としましてはご相談者様に対して、警察を呼んだ方が良いと助言いたしました。その後、当組合から企業に対して警察を呼ぶ旨を伝えたところ、その上司は帰っていき事なきを得ました。
「若い時から世話してやったのに!」と情に熱い方や、単純に納得がいかないという方が、こういった行動に出られると思います。
退職代行に依頼をする前に、自分の上司がどういった行動を起こすのかを考えて、その旨を予めご相談時にしていただけると対策が立てやすく、スムーズにやり取りが進みます。
6.懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者側に与えらる罰として最も重い処分です。具体的な処罰としては「退職金の不支給や減額」「失業保険の給付日数が短い」「転職時に懲戒解雇された申告をする」といった内容です。
主に大きなペナルティとして転職が不利になってしまう点があります。ですが、退職代行を利用したからといって、懲戒解雇になるといったケースはほぼあり得ません。
懲戒解雇扱いになる主な理由としましては
- 刑事犯罪(横領、詐欺、窃盗など)
- 業務命令違反
- ハラスメント
- 無断欠勤
- 経歴詐称
- 機密漏洩
- 副業
以上が挙げられます。明らかに会社側に不利益が生じた場合において、懲戒解雇が有効と判断されます。
厳密に「これをしたら懲戒解雇です」といった内容は無く労働契約法第15条における客観的な合理的理由や、やむを得ない事由が無い場合において、懲戒解雇が有効とされています。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
引用元:労働契約法第15条
退職代行を利用する理由として「会社が退職を認めてくれない」「労働者本人が会社に退職の意思を伝えられる精神状態ではない」といったやむを得ない事由があるため、退職代行を利用しただけで、懲戒解雇にすることは難しいです。
労働者が会社のお金を横領し、逃げる目的で退職代行を利用した場合などは懲戒解雇のリスクがありますが、そういったケースはほぼ稀ですし、会社に連絡した時点で発覚することです。その場合はもちろん、退職は難しくなりますが、懲戒解雇されるケースは労働者本人に問題がある場合なので、退職代行が理由で懲戒解雇になるというケースはあり得ません。
7.損害賠償請求
懲戒解雇同様、損害賠償を請求されるケースもほとんどありません。ごく稀に企業側から「損害賠償請求してやる!」と言われることはありますが、そのほとんどが企業側による嫌がらせです。やはり、突然会社を辞められたこと、自分から言わずに退職代行を使ったという腹いせにより、言ってくる企業もいらっしゃいます。
そもそも、損害賠償請求ができるケースとしては「会社の権利を侵害された」場合に有効となります。
民法第709条 (不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法第709条
退職代行を利用し退職したことが利益の侵害かと問われると微妙なところです。立件が難しく、逆に企業側としても手間になってしまい、企業側にメリットがありません。
8.非弁行為を行う業者に依頼をしてしまった
上記までは会社や相談者様に非があった場合のトラブル事例を紹介してきました。ここからは、退職代行サービス側に問題があった場合に考えられるトラブルを解説していきます。
当組合のように労働組合や弁護士であれば、給与に関する話し合いや、有給消化に関する交渉事などは問題なく行うことができます。
しかし、中には民間企業が行っている退職代行サービスもあります。対応できる範囲をしっかり理解して、顧問弁護士をつけて運営している会社もありますので、そういった会社であれば、安心して依頼ができます。
危険なのが、顧問弁護士を記載していないサービスです。顧問弁護士を付けていない会社全てが危険というわけではありませんが、リスクはあるということです。
また格安の退職代行サービスであってもリスクはあると考えた方が良いです。格安のサービスでお客さんを付けて数だけこなすといった業者も存在します。
9.交渉権を持たない業者に依頼をしてしまった
交渉ができない民間企業の全てのサービスがダメというわけではありません。民間企業は交渉ができないことをデメリットとして良くあげられていますが、逆に退職代行を利用しても問題なく給与の支払いや有給取得の対応もしてくれるであろう大企業などであれば、民間だけで事足りるケースもあります。
また、入社して1ヶ月未満の方や、アルバイト・パートなど最悪給料もいらないから今すぐ辞めたい!と言う方であれば、利用をおすすめできます。
デメリットやトラブルは予期せぬことが起きた時に、対処できなかったからそう思うのであって、予め理解していればいくらでも対処は可能です。
確実に有給を使って辞めたい!高圧的な代表だからスムーズにいかないだろう…。といったことが考えられるのであれば、労働組合や弁護士に依頼をするのが無難です。
トラブルを回避できる退職代行選び
当組合の事例も踏まえて、退職代行を使うことで起こるトラブルをご覧いただきました。
そのためにも、退職代行業者の運営元も気にしてみてください。
運営元 | 交渉の可否 | 費用 |
---|---|---|
弁護士 | 交渉可能 | 費用高め |
労働組合 | 交渉可能 | 費用低め |
民間企業 | 交渉不可 | 費用低め |
弁護士や労働組合であれば、会社との交渉ができるのでトラブルは少なくて済みます。
弁護士は代理人として、労働者本人に代わり、法律に関わる行為を代理で行うことが可能です。
ブラック企業で、場合によっては裁判に発展する可能性がある方にはおすすめの退職代行企業といえます。
とはいえ、弁護士に依頼するのですから、ある程度の予算は組んでおく必要があります。
また、労働組合も労働組合法に労働組合法により団体交渉権を有しているため、交渉が可能です。
法的な対応はできませんが、裁判に発展しない限りは弁護士運営の退職代行とほぼ同じ対応ができます。
弁護士よりも費用が低めに設定されているのも特徴のひとつです。
弁護士の場合は弁護士が、労働組合の場合は組合員が交渉担当者となり、退職に関する交渉をしていきます。
交渉をしても皮弁行為のリスクがないため、弁護士や労働組合に依頼をするのがトラブルを避ける方法といえます。
退職代行を利用できない場合
ニチローで退職代行をお断りしているケースを解説していきます。
下記のようなケースの場合、トラブルに繋がりやすいという特徴があります。
・公務員
・有期雇用の派遣社員
・金銭的なトラブルを抱えている方
それぞれのケースを具体的に見ていきましょう。
公務員
まず最初は公務員の場合です。
公務員は民間企業の社員と規則が異なるため、一概に退職代行を利用できるかは難しいところです。
公務員の退職処理は、企業ではなく自治体や国が行っているため、第三者からの退職処理は断られる可能性があります。
特に自衛官などは、退職代行サービスの介入が難しい職業です。
一方で、教員などは退職代行が利用できる可能性もあります。
自分で判断するのが難しい場合は、一度ご相談ください。
有期雇用の派遣社員
有期雇用形態の場合は、退職ができない場合があるので注意しましょう。
民法の定めにより、有期雇用の社員はすぐには退職ができません。
そのため、無期雇用をは処理が異なるのです。
派遣社員のように「期間の定めのある雇用契約」の場合には、契約期間を満了しない限り退職が難しいところがほとんどです。
とはいえ、やむを得ない事由により退職が可能なケースもあるため、どうしても退職したいという方は一度ご相談ください。
金銭的トラブルを抱えている方
会社との金銭的なトラブルを抱えている場合は、退職代行が難しいといえます。
最もトラブルに繋がりやすいケースのため、退職代行をお断りすることもあります。
たとえば、会社からお金を借りている場合や、会社のお金を横領している場合が挙げられます。
金銭面をクリアにしてから、依頼することで退職代行をスムーズに進めることができるかもしれません。
退職代行のトラブルまとめ
退職代行サービスはまだまだ認知度が低いですが、時代に合ったサービスとして近年人気を集めています。
しかし、人気だからこそ、悪徳業者も増えてきているのが現実です。
トラブルを避けるためにも、弁護士や労働組合が運営している退職代行企業を選ぶようにしましょう。
適切な退職代行サービス選びをすることで、トラブルを最小限に抑えられるはずです。