長年にわたり大きな社会問題となっているパワハラ、その存在を自分の身近で感じたことのある人は決して少なくありません。
警察庁が行った自殺者数の統計によると勤務問題を理由にした自殺の中で、「職場の人間関係」を理由にしたものが全体の4分の1を占めています。
しかし、いざ誰かに相談するとなると二の足を踏んでしまい、自分の中に溜め込んでしまっている方が多いのが実情です。パワハラはグレーゾーンが大きく、訴えることが難しいと思っている方も多いと思います。
この記事ではパワハラの定義を詳しく解説し、パワハラと認められる行為が何かを明確にします。そして誰にどう相談すればいいのか、パワハラ問題を解決するためにはどうしたらいいかを解説します。
どこからがパワハラにあたるのか
厚生労働省の職場のハラスメントに関する実態調査(令和2年)によると、過去3年間にパワハラを経験した人の割合は31,4%でした。
しかしパワハラの存在を知りながら会社が何もしなかったというケースが約5割、パワハラがあったともなかったとも認定せず放置したケースが約6割という結果になっています。
2020年に労働施策総合推進法が改正され、企業はパワハラの防止対策を行うことが義務付けられるようになりました。このような法律があるにもかかわらずなぜ放置されたケースが多いのでしょうか。
それは、パワハラの定義があいまいな人が多いからです。自分が受けている行為がパワハラに当たるかわからないという人も多いことでしょう。下記がパワハラに該当する6つの言動とされています。
- 精神的な攻撃
- 身体的な攻撃
- 課題な要求
- 過小な要求
- 人間関係からの切り離し
- 個の侵害
たとえ会社に訴えたとしても「昔はこのくらい普通だった」、「指導のいっかんであり、みんなこのくらいやっている」と言われてしまうのではないかと思い、なかなか言い出せないという人も多いと思います。まずはパワハラの明確な定義をしっかりと理解し、判断をつけられるようになることが被害から抜け出す第一歩です。
パワハラかもと感じたら
自分が受けている行為がパワハラに該当するという明確な自信が持てなくても、パワハラかもしれないと思ったら我慢せず解決のための行動を始めてください。行動は少しでも早く始める方がいいです。
また、できるだけ周囲の人の協力を得ることが大事です。それでは、解決へ向けて一体どのような行動ができるのかを解説していきます。
周囲の人に相談する
まずは周囲の人に自分が経験したことを聞いてもらうことから始めるのがいいでしょう。家族や友人でもいいですし、会社の同僚や同期でもかまいません。
「他人に相談した」という事実そのものがいつ頃から、何に対して、どのくらい悩んでいたかを証明する証拠になります。つまり、パワハラの存在を会社に訴える際、会社がその事実を確認する手立てとなります。
会社の上司、人事に相談する
パワハラは、いきなり法に訴えたり公的機関に報告するのではなく、まずは会社に報告することが大事です。なぜなら会社は社員からパワハラの訴えがあった場合、対応する義務があるからです。もしこの段階でパワハラがなくなれば、今の職場で気持ちよく仕事を続けていくことができるかもしれません。また、パワハラはその行為を行なった本人だけでなく、会社も責任を負うことになります。もし会社がじゅうぶんな対応をしてくれず、のちに法に訴えるとなった際には、会社が社員からの相談に対して「どの程度対応したか」ということがとても重要な要素となります。
公的機関に相談する
公的機関に相談する場合は以下の二つの状況があると思います。
- 会社に訴えたら会社にいづらくなる、出世に響くということが怖くて言い出せない
- 会社に訴えたが取り合ってもらえなかった、じゅうぶんな対策をしてもらえなかった
このようなときには無料で相談に乗ってくれる公的機関に助けを求めましょう。
弁護士に相談する
公的機関での相談が上手くいかない、パワハラによって退職に追い込まれた、損害賠償を請求したいというような場合は弁護士に相談してください。
公的機関は会社と相談者の間の紛争を取り扱う場所なので、相談者とパワハラを行なった人物の間の個人的な問題には立ち入りません。また、損害賠償の際の交渉や裁判は弁護士の領域になります。自分がどういう解決を望むかに合わせて、相談先を決めるといいでしょう。
パワハラを無料で相談できる場所
社外の機関にパワハラを相談しようと思ったとき、費用も大変気になることだと思います。精神的に辛い状況の中、お金と時間を費やさなくてはいけないのは大きな負担です。しかし無料で相談できる場所がいくつかあります。
労働基準監督署内の総合労働相談コーナー
パワハラの相談窓口として労働基準監督署、略称「労基署」を最初に思い浮かべる方が多いと思います。ここは簡単にいうと企業、組織が労働基準法をしっかりと守っているか監督するところです。
この労基署の中にある総合労働相談コーナーが、職場での全てのトラブルに関しての相談窓口となっています。
総合労働相談コーナーがしてくれることは主に3つです。
- 相談に乗る
- 助言をする
- あっせんの紹介をする
相談に乗り、その内容に応じて解決策をアドバイスしてくれる場所とイメージしてください。まずは会社内での解決が可能かを判断します。会社との話し合いに第三者の介入が必要な場合は話し合いを行ってくれる機関を紹介してくれます。
全国の労働基準監督署内や各都道府県労働局など379ヶ所に設置してあり、予約などは必要ありません。匿名でも相談できるので会社にばれる心配をせずに相談に行くことができます。
「個別労働紛争のあっせん」を行なっている都道府県労働委員会・都道府県庁
「あっせん」とは都道府県の労働局が行っている制度の一つです。(注:労働者と事業主(雇用者)とのトラブルを解決する制度ですので、労働者と労働者の個人間での紛争は対象となりません。)
労働局はパワハラの相談を受けた際、まずは会社に助言や指導を行います。
その後、当事者間では解決が困難であると判断した際、あっせんへと移行されます。労働問題の専門家が相談者と会社、双方の主張を確認し、話し合いを促すことで紛争の解決を目指します。あっせんを利用するメリットとしては以下のようなことがあげられます。
- 労働委員会窓口に申請するだけなので手続きが簡単
- 弁護士や学者、社会保険労務士などで構成された専門家が対応
- 手続きは非公開で行われるので相談者のプライバシーが守られる
法テラス
法テラスは国が設置した法律に関する「総合案内所」のようなところです。弁護士に相談したいが、どうやって依頼すればいいかわからないなどの場合は、ここに問い合わせてください。以下のような場合は弁護士への相談が有効です。
公的機関では解決が難しい場合
労働基準監督署や労働局は公的機関なので必ずしもすべての問題を解決できるとは限りません。また基本的に労働者と事業主との紛争を扱うので、個人間の問題の解決は対象となりません。
会社が問題をきちんと解決してくれたとしても、パワハラを行なった個人との間で問題が残っているようでしたら弁護士に相談してみるといいでしょう。
裁判など公的機関では行えない対応を望む場合
パワハラで実際に行われた行為の内容によっては個人と会社、双方に損害賠償が請求できる場合があります。また、パワハラにより退職を余儀なくされた、解雇されたという場合にも弁護士に法的な解決を相談してみることをおすすめします。
みんなの人権110番
これは法務省が行なっているものです。人権に関する相談に電話で乗ってくれるのですが、パワハラも人権問題のうちの一つです。
誰かに相談したいが恥ずかしくて打ち明けられない、相談できる相手がいない、労働基準監督署まで行く勇気が出ないなど、なかなか行動に移せずにいる方はまずここに電話してみてください。
誰かに話を聞いてもらうことで考えや気持ちが整理できることがあります。そういう助けを必要としている人はまずここから初めてみてください。
パワハラを相談する前に準備すること
パワハラは同僚の前で罵倒されるなど、周囲がわかるように行われることもあれば、誰にも気づかれない場所で行われることもあります。
そのような場合、パワハラを会社に訴えても信じてもらえないのではないか、証拠がないからと取り合ってもらえないのではないかと不安になることでしょう。
そのような状況に備えてしっかりと証拠を集めておくことが大切です。ただ、証拠といっても決して難しいことではありません。以下に紹介するようなものでも十分、証拠になりえます。
記録をつける
日記でもスマートフォンのメモ機能でもかまいません。できるだけパワハラに関する詳細を記録に残すようにしましょう。
- いつ起きたか
- どこで起きたか
- 誰が行なったか
- 何をしたか
- なぜそうなったか
- どのように行われたか
- 目撃者はいたか
- 誰かに相談したか
以上の事柄をできるだけ詳しく書き記してください。文章でも箇条書きでも大丈夫です。日記帳やノートの走り書きでもいいので記録を残しておくと、会社に訴えたり外部機関に相談する際、具体的に事実を説明できますし、パワハラがあったという証拠にもなります。
メールを保存しておく
メールで無謀な指示を受ける、ひどい言葉を書かれるなどの事実があればメールを保存しておいてください。訴える前に解雇されたり退職を余儀なくされた場合は、会社のメールは見ることができなくなります。その場合はプリントアウトをするなどして、できるだけ証拠を目に見える形で残すことが大事です。
録音する
もし日常的に暴言を吐かれている、罵倒されているなどがあれば携帯電話の録音機能を使うなどして残しておいてください。これも証拠となる可能性があります。
周囲に相談する
周囲への相談もパワハラを証明する証拠になりえます。相談内容から何が起きたかがわかりますし、相談時期からどのような頻度でいつから行われていたかがわかるからです。
自分にとってのパワハラの解決とは何か
パワハラを受けた際、どういう解決を望むか、これが一番大切な問題です。
- 今の会社で気持ちよく働き続けるために上司に行動を改めて欲しい
- 上司を別の人に変えて欲しい
- 自分を別の部署へ異動させて欲しい
- 退職したい
- 損害賠償請求したい
- 精神的にまいってしまい通院を余儀なくされたので労災認定して欲しい
解決と一口に言っても、望むゴールは千差万別です。100人いれば100通りあると言っても過言ではありません。
しかし必ずしも満足のいく解決ができるケースばかりではないのが現状です。
- 今の会社で働き続けたいのに、パワハラを人事に相談したらいづらくなってしまった
- 希望の部署への配置換えや昇進が難しくなった
- 上司は別の人に変わったが、社風が変わらないので、同じような状況が繰り返される
- 転職活動で、前の会社を辞めた理由を聞かれ、うまく説明できなかった
- 精神的ショックから通院期間が長引く
勇気を持って現状を変えようとしたのに思い通りの結果にはならなかったという声もあり、そのようなことから相談を躊躇してしまう人は少なくありません。
しかしパワハラに甘んじ我慢してしまうことは大きな健康被害につながります。望む解決を得られるようまずは自分にとっての解決とは何かをしっかりと考えてみてください。自分一人では答えが見つからない時は、この記事で紹介したいずれかの方法で相談をしてみてください。
パワハラ問題は1人で抱え込まないことが大事です。