「退職代行を利用すると損害賠償を請求される可能性がある」という記事を見て、不安に思われる方は少なくありません。実際、当組合を利用される方からも、依頼前に「に損害賠償請求はされないのか?」というご質問を受けることがあります。
結論から言うと損害賠償をされるケースはほとんどありません。この記事では退職代行を使って損害賠償請求をされるケースや、損害賠償請求をされないための注意点を解説していきます。退職代行サービスをご検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

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退職代行で損害賠償請求されるケースはほとんどない
退職代行を利用したからという理由で損害賠償請求されるケースは非常に稀です。そもそも損害賠償請求を行うには手間も時間もかかり、会社側にあまりメリットがありません。
- 損害賠償額の算定
- 示談交渉
- 調停
- 裁判
大きく分けて4つの工程に分かれるのですが、一連の流れが終わるまでにも費用が掛かり、仮に請求ができたとしても損害賠償費用と裁判までの費用でトントンとなり、企業側もメリットがあまりにも少ないです。
企業側が損害賠償を起こすケース
前述した通り、退職代行を利用したからという理由で損害賠償を請求される可能性はほとんどないものの、ゼロではありません。企業側が損害賠償請求するケースは主に3つあります。
- 規模が小さい会社
- 損害賠償請求した経験がある
- 脅しとして言ってくる
実際に起きる可能性として非常に低いですが、損害賠償されるケースとしたらこの3点が挙げられます。この3点に関して、詳しく解説をしていきます。
規模が小さい会社
社長もしくは経営側と従業員の距離が近い会社は、損害賠償を主張してくることもあります。社長の個人的な感情によって「損害賠償請求するからな! 」と脅されるケースです。これは退職代行を使われたのが気に食わなくて感情的になり損害賠償を請求し嫌がらせが主な理由になってきます。
損害賠償請求した経験がある
過去に損害賠償請求を行った経験がある会社は、損害賠償請求を行う可能性が高いと言えます。一連の流れを経験しており、弁護士にも話を通しやすいからです。訴訟のハードルが低くなっているため、本気で損害賠償請求を行う可能性があります。
脅しとして言ってくる
実際は本気で訴訟を起こそうとは思っておらず、単なる脅しで言ってくる場合もあります。その従業員が気に入らず、感情的になっているパターンです。脅しなのか本気なのかの見極めは難しいですが、前述したように損害賠償請求の手続きは面倒なため、実際に損害賠償を請求される可能性はほぼありません。このように、相手が感情的になり脅しで言っているだけのケースもあります。
損害賠償が発生する条件は?
前項では企業側が損害賠償請求を起こすケースを紹介しました。それでは具体的にどういった状況になると、損害賠償を請求されるのでしょうか。法律的な用語で言えば「損害賠償請求権」という権利が発生する条件下においてです。
たとえば機密情報の持ち出し、名誉毀損、損害を与える行為、過剰な勧誘や引き抜き、研修・留学直後の退職、無断欠勤、備品の紛失・破損といったことが、損害賠償請求権が発生する条件として挙げられます。
逆に言うと、この条件にあてはまらなければ、訴訟を起こしたところで不成立になりやすくなります。
機密情報を持ち出した
機密情報を持ち出し会社に甚大な被害をもたらせば、損害賠償請求される可能性があります。持ち出した情報の内容によっては、個人情報保護法に違反する可能性もあります。
入社時に秘密保持に関する誓約書を書かせる会社も多くなってきています。会社や取引先に関する資料はもちろんのこと、仕事で受け取った名刺やメモに使ったノートなども重要な情報にあたるため、退社時には返却しなければなりません。
会社の名誉を傷つけた
会社の名誉を傷つけることも、損害賠償請求の対象になります。会社の名誉を傷つけることで売り上げが下がったり、取引が減ったりする可能性があるからです。
会社に不満があったとしても、SNSに書き込むと誹謗中傷につながる恐れがあります。たとえアクセス数が少なかったり、鍵付きアカウントであったりしても、名誉毀損になる可能性は否定できません。「会社に仕返しをしてやりたい! 」と思ったとしても、名誉毀損にあたる行為は避けるべきです。
会社に損害を与えた
従業員の退職自体が会社にとって大きな損失となり、損害賠償を請求されることもあります。たとえば、特殊な資格を持っている人が退職することで業務が回らなくなる、引き継ぎを一切せずに退職する、といったケースは会社に大きな損害を与えてしまいます。
企業側の主張次第では従業員が不利になるケースがあるため、退職代行を利用する場合はそのラインの見極めも依頼者には必要になってきます。
これは後述する「BGCショケンカイシャリミテッド事件」の判例が該当します。
退職時に勧誘や引き抜きを行った
退職時に過剰な勧誘や引き抜きを行うことも禁止されています。一斉に社員を引き抜けば、会社に大きな損害を与えてしまうからです。職業選択の自由が認められている以上、退職の自由は誰にでもあります。
しかし引き抜かれた社員の地位や人数、経営への影響力によっては違法となる場合もあります。そのため、会社経営に重大な影響を及ぼすほどの引き抜きや勧誘は避けるべきです。これは後述する「ラクソン事件」の判例が該当します。
研修や留学直後に退職した
研修や留学直後に退職すると、経費としてかかった費用の返還を求められることがあります。会社の経費で行っている自由参加の研修や留学の場合は、特に注意が必要です。労働基準法第16条にあるように、違約金や損害賠償額を予定する契約を結ぶことは禁じられています。
とはいえ、研修費用の貸付制度がある場合もあります。研修前に「◯ヶ月以内に退職した場合は研修費用を返還する」といった誓約書を書いている場合は要注意です。
このように研修や留学を自分の意思で行った場合は、期間を空けてから退職することをおすすめします。
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
引用元:労働基準法第16条
無断欠勤をした
無断欠勤もしないほうがよいです。退職代行を使った後に無断欠勤を続ければ、損害賠償を請求される可能性もあるからです。損害額自体はそれほど高額にはなりませんが、懲戒解雇になる可能性も否めません。懲戒解雇になれば退職金が出ないうえ、離職票に懲戒解雇による退職であることが記載され、転職も厳しくなるため注意が必要です。これは後述する「ケイズインターナショナル事件」と「BGCショケンカイシャリミテッド事件」の判例が該当します。
トラブルを起こした
すでにトラブルを起こしている場合は損害賠償を請求される可能性があります。退職代行を利用する前にトラブルを起こしていれば、いくら退職代行を利用したとしてもスムーズには退職できません。会社の備品を紛失した、破損した、などのトラブルは損害賠償請求の対象になります。
このように備品の弁償費用などとして損害賠償を請求される可能性もあります。
万が一損害賠償請求された場合の対処法
退職代行は労働者にとっては便利なサービスですが、企業側からしたらあまり良く思わないこともあります。場合によっては何かしらの理由をつけて「損害賠償請求する! 」などと脅されることもあるかもしれません。そのためここでは、万が一損害賠償請求されたときの対処法を紹介します。損害賠償請求されたら、まずは労働組合や弁護士に相談することをおすすめします。個人では対応しきれない問題も、弁護士や「団体交渉」を行える労働組合であれば解決できる可能性があります。逆に、とにかく誰かに気持ちをわかってほしいからと、社内の人に相談するのは避けましょう。情報漏洩につながる恐れがあります。損害賠償請求されて怖くなったからと無断欠勤するのも、懲戒解雇の対象となってしまうためNGです。
労働組合や弁護士に相談する
1人で悩んでいても解決策は見つからないことが多いため、労働組合や弁護士に相談することが先決です。
労働組合に相談すると、会社に対して「団体交渉」をしてくれます。個人では対応しきれない問題も、団体として交渉することで解決できる可能性があります。正当な理由がないにもかかわらず団体交渉を拒否することはできないため、まず労働組合や弁護士に相談することをおすすめします。
社内の人に相談するのは避ける
誰かに相談したいと思っても、社内の人に相談するのは情報漏洩になる可能性があるため、避けたほうが賢明です。誰かに気持ちをわかってほしくて相談したくなるのもわかりますが、同僚に相談しても味方になってくれるとは限りません。自分も相手も仕事が行いづらくなるため、社内の人に相談するのは避けたほうがよいでしょう。
怖くなって仕事をバックレるのはNG
損害賠償請求されて怖くなったからといって、仕事をバックレるのはNGです。前述したように、無断欠勤は懲戒解雇の対象になるからです。特に雇用契約期間中の無断欠勤は損害賠償請求されるリスクも高まります。
そのためまずは労働組合や弁護士に相談して、通常通り出勤するのがベストです。
損害賠償請求をされないための注意点
万が一自分が損害賠償請求され、それに応じる必要がないとしても、損害賠償請求されるのは精神的な負担になります。損害賠償請求されるリスクを下げるための対処法を事前に知っておくことも重要です。退職代行のなかには悪徳業者もいます。会社と法的紛争が生じた場合、悪徳業者は対応してくれないため、弁護士や労働組合が運営している退職代行を選びましょう。引き継ぎもできる限り行い、就業規則を守って退職すると、円満退職できる可能性が高まります。
悪徳業者に注意する
退職代行のなかには悪徳業者もいるため、注意が必要です。弁護士や労働組合以外が運営している退職代行では、会社に退職の意思を伝えることしかできません。そのため会社と法的紛争が生じた場合、せっかくお金を払ったのに結局何もしてくれない、という事態に陥ることも考えられます。そうした事態を避けるために、弁護士や労働組合が運営している退職代行を利用することをおすすめします。
できるだけ引き継ぎを行う
円満に退職するためにも、引き継ぎはできる限り行うべきです。特に特殊な仕事内容を担当している場合は注意が必要です。体調不良などのやむを得ない状況のとき以外も、誠意をもって対応することで、会社の理解を得ることができます。このように可能な限りで引き継ぎを行っておくと、余計なトラブルを避けられます。
会社の就業規則を守って退職する
会社の就業規則を守って退職すれば、損害賠償請求をされることはほぼありません。労働者には退職の自由が認められていますが、なかには就業規則を持ち出されて退職を拒否されるケースもあります。病気や家族の健康状態などで退職するのがやむを得ない場合はこの限りではありません。やむを得ない事情がなくても、できる限り会社の就業規則を守って退職するほうが円満退職につながります。
まとめ
今回は、退職代行を利用したという理由だけでは損害賠償請求されるケースはほぼないということをお伝えしました。しかし退職するまでに無断欠勤や職務放棄をしたり、過剰な引き抜き行為を行ったりすることで会社に多大な損害を与えた場合は、損害賠償請求される可能性があります。万が一損害賠償請求された場合は1人で悩まず、労働組合や弁護士に相談してみてください。当組合でもご相談を承っておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。