苦労してやっとの思いで歯科衛生士になったにもかかわらず、実際に働いてみると、院長の方針やほかのスタッフとの人間関係、仕事内容などに不満を持っている人も多いのではないでしょうか? ワンマン経営の院長の下、歯科衛生士として思うように働けなければ、辞めたいと思うのも無理はありません。
この記事を読めば、歯科衛生士が辞めたくなる理由やその対処法、働きやすい歯科医院の選び方や、今の職場を円満退職する方法までわかります。歯科医院は全国に山ほどあり、新卒の歯科衛生士でも転職は難しくありません。ぜひ一歩を踏み出しましょう。
歯科衛生士を辞めたい理由5つ
歯科衛生士が仕事を辞めたくなる大きな原因は、ワンマン経営の院長との方針の不一致や、ベテラン歯科助手などとの人間関係です。そのほかにも、雑用ばかりで歯科衛生士の業務をさせてもらえないことや、待遇の悪さ、衛生管理のずさんさなどに不満を持っている歯科衛生士が多く見受けられます。
院長の方針と合わない
歯科医院の院長のなかには、患者やスタッフのことを大切に扱わず、裸の王様状態になっている人が少なくありません。これは歯科医院のほとんどが小規模で、院長によるワンマン経営だからだと考えられます。
自分の機嫌が悪いからといった理不尽な理由で歯科衛生士に怒ったり、経費削減のために、スケーラーなどの消耗した道具の交換や空調の使用を拒んだりといった横暴が目立ちます。
こうした患者やスタッフを大事にしない院長の方針についていけなくなり、辞めたいと思う歯科衛生士は少なくありません。
人間関係が辛い
人間関係に悩んで辞めたくなる歯科衛生士も多くいます。前述したように歯科医院は小規模なところがほとんどのため、人間関係が狭く、苦手なスタッフとの距離が近いからです。
歯科医院には歯科衛生士や歯科助手、院長や院長夫人、ほかの勤務医や受付などが在籍していますが、なかでも知識や経験が豊富なベテランの歯科助手との関係で悩む新卒歯科衛生士は珍しくありません。それは歯科助手のことを下に見ているのが自然と態度に表れてしまい、歯科助手もそれに負けじと対抗してくるからです。「苦労して歯科衛生士になったんだから、歯科助手なんかに指導されたくない! 」という歯科衛生士と「なんで仕事のできないやつのほうが私より給料が高いの? 」という歯科助手の間に、戦いが自ずと勃発してしまいます。
このように狭い歯科医院内での人間関係に悩み、辞めたくなってしまう歯科衛生士はたくさんいます。
仕事内容に納得できない
教育体制が整っておらず、新卒の歯科衛生士に歯科衛生士業務ではなく、雑用ばかりさせる歯科医院もあります。
特にここ数年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、新卒の歯科衛生士に業務を任せることに慎重な歯科医院が多く、消毒や掃除、受付など、歯科衛生士でなくてもできる業務をさせる動きが顕著です。新卒の場合、忙しそうな先輩歯科衛生士に自ら指導を願い出たり、質問をしたりできる人は多くありません。
苦労して資格を取ったにもかかわらず、このように歯科衛生士の業務をさせてもらえないことに不満を感じ、辞めたくなってしまう人もいます。
待遇や福利厚生に不満がある
待遇や福利厚生にも不満を感じている歯科衛生士が少なくありません。前述したような小規模な歯科医院では、福利厚生が整っていないところが多いからです。
たとえば、社会保険に加入していない、有給を消化できない、産休・育休制度がない、残業が常態化している、残業代がみなし残業代として給料に組み込まれている、といったことが挙げられます。
こうした福利厚生の整っていない歯科医院では、結婚や出産、子育てをしながら働き続けることが難しいため、歯科衛生士は自ずと辞めていってしまいます。
衛生管理がずさん
衛生管理のずさんさに我慢できなくなり、辞めてしまう歯科衛生士もいます。これは歯科衛生士の専門学校時代に、衛生管理について厳しく指導されてきた人が多いからだと考えられます。特に近年は新型コロナウイルスの発生を受け、歯科衛生士が衛生管理に今まで以上に敏感になっている傾向です。
歯科医院のなかには、滅菌消毒や手袋の交換を患者ごとにしないといったずさんな衛生管理をしているところも少なくありません。
こうした衛生管理のずさんさを目の当たりにし、専門学校時代の徹底的な衛生管理指導とのギャップに苦しみ、辞めてしまう歯科衛生士もいます。
歯科衛生士を辞めたいときの対処法
上記のような理由で歯科衛生士を辞めたくなったときは、雑用であっても指示されたことに一旦素直に取り組み、一通りの業務を1人でできる状態にしておきましょう。そうすれば院長やスタッフから徐々に信頼されるようになり、人間関係が改善し、待遇や業務の改善を相談したときに応じてもらいやすくなります。
院長はその歯科医院の経営者でもある場合が多いため、相談するときは経営的な視点を交えて相談できるとより効果的です。
しかし、それでも状況が改善せず、辞めたいという気持ちが変わらない場合は転職を検討しましょう。
どんな業務にも一旦素直に取り組む
歯科衛生士業務ではなく雑用ばかり指示される場合、一旦は素直に従い、取り組むようにしてみましょう。素直であると仕事を任せてもらいやすいからです。そうして仕事ができるようになると徐々に信頼されるようになり、いつの間にか人間関係も改善する可能性があります。
受付や掃除、消毒など、誰にでもできる業務に対しても、何でも吸収しようという気持ちで取り組みましょう。ただし、1年経っても歯科衛生士の業務をさせてもらえない場合は辞めたほうが賢明です。
特に新卒は歯科医療全般や歯科医院の運営について学べる貴重な時期です。どんな業務も無駄にはならないため、最初は素直に取り組んでみましょう。
待遇や業務の改善を院長に相談する
上述したようにどんな業務にも積極的に取り組み、一通りの仕事ができる状態になったら、待遇や業務の改善を院長に相談してみましょう。仕事ができるようになれば、院長も応じてくれる可能性が高くなります。
給料に関しては、院長が特に考えずに求人サイトごとに異なる額を提示しているケースがあります。そうした場合、相談することで意外とすぐに改定されることがあるため、なるべく早めに相談しましょう。
業務の改善に関しては、自分の希望だけを伝えるのではなく「こうしたほうが回転率が高くなるのではないでしょうか? 」というように、経営的な視点から意見すると応じてもらえる可能性が高まります。
ある程度仕事ができるようになったタイミングで院長に相談してみましょう。
転職する
上記の2点を実践しても状況が改善されず、辞めたい気持ちが変わらない場合は転職を検討しましょう。それ以上その歯科医院にい続けたところで、歯科衛生士として成長することはできません。
ただし、給料が大幅に高く設定されている歯科医院への転職には注意してください。その歯科医院には、給料を高く設定しなければ歯科衛生士が集まらない理由があります。おそらく残業が多く激務である、もしくは院長やスタッフに難があるといった、いわゆるブラックな歯科医院だと考えられます。給料が高くてもそのようなところに転職しては意味がないため、絶対に避けましょう。
歯科衛生士が働きやすい歯科医院の選び方や、歯科衛生士の資格や経験をそのまま生かせる転職先については後述していますので、ぜひ参考にしてみてください。
新卒の歯科衛生士でも転職できる
この記事を読んでいる人のなかには、転職はしたいけれど「働いて1年未満なのに転職できるのかな? 」と不安に思っている新卒の歯科衛生士さんも多いのではないでしょうか?
実は歯科衛生士の場合、ほかの職業と比べると新卒で転職することは難しくありません。それは歯科医院が全国に山ほどあり、歯科衛生士の働き口がたくさんあるからです。
厚生労働省が行った、令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(6ページ)によると、全国にある歯科医院の数は、令和2年10月1日時点で68,000施設近くに上ります。コンビニの店舗数が約56,000店舗だということを考えると、歯科医院の数が非常に多いということがわかります。
また、公益社団法人 日本歯科衛生士会が令和2年3月にまとめた『歯科衛生士の勤務実態調査報告書(46ページ)』によると、職場を1回でも変えたことがある歯科衛生士は7割以上、4回以上変えたことのある歯科衛生士も2割近くいます。
こうした調査結果から、歯科衛生士の離職率が高いこと、しかし同時に転職もしやすいことがわかります。したがって、新卒の歯科衛生士でも転職先を見つけることは十分可能です。体も心も限界状態にある人は、迷わず転職しましょう。
参照記事
・厚生労働省ホームページ『令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況』
・一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会ホームページ『コンビニエンスストア統計調査月報 2022年7月度』
歯科衛生士が働きやすい歯科医院とその選び方
歯科衛生士が働きやすい歯科医院は、歯科衛生士の意見を尊重してくれ、なおかつ教育体制が整っているところです。そうした歯科医院を選ぶと、仕事のモチベーションが上がり、歯科衛生士として大きく成長できます。
歯科医院を選ぶときは、ホームページや口コミサイト→見学→面接の順で、診療方針や待遇などを入念に確認しましょう。
歯科衛生士の意見を尊重してくれる
歯科衛生士の意見にも耳を傾けてくれる院長がいる歯科医院はおすすめです。自分の意見を尊重してもらえると、仕事のモチベーションにつながります。モチベーションが上がると意欲的に仕事に取り組むようになるため、患者との間に信頼関係が形成され、より良い治療を提供できるようになります。
そのため、歯科衛生士を始め、ほかのスタッフの意見も尊重してくれる院長がいる歯科医院を選ぶようにしましょう。
教育体制が整っている
歯科衛生士として成長するためには、教育体制がしっかり整っている歯科医院を選ぶことも重要です。「技術は見て盗め」というスタンスの院長もいますが、目で見て盗むには限界があります。
人は自分が教えてもらうときだけでなく、自分が誰かに教えるときにも成長できます。そのため、教育体制が整っている歯科医院であれば、自分が先輩になったときに、後輩の指導を通してさらに成長することが可能です。
したがって、教育体制がしっかり整っており、丁寧に指導してくれる歯科医院を選びましょう。
インターネットで下調べする
働きやすい歯科医院を選ぶためには、まず歯科医院のホームページや口コミサイトなどで下調べをすることが大切です。ホームページでは院長やスタッフ、診療方針などの情報、口コミサイトでは患者のリアルな口コミが見られます。
実際と違うこともありますが、院長やスタッフの雰囲気や年齢層、診療方針や使用している医療機器などの情報、口コミが極端に悪くないかなどをチェックしておきましょう。
下調べをして選択肢を事前に絞っておけば、その後の転職活動における無駄な時間や労力を省けます。
診療を見学させてもらう
インターネットでの下調べが終わったら、気になる歯科医院の診療を必ず見学させてもらいましょう。「百聞は一見に如かず」 というように、実際に見学しなければわからないことはたくさんあります。
見学では診療の内容や流れ、院長やスタッフの雰囲気や患者との接し方、スタッフ同士の関係性などをチェックしましょう。診療方針に関しては、院長より歯科衛生士に聞いたほうが実態をつかめます。
転職活動を成功させるために、こうした情報は非常に重要です。診療は必ず見学させてもらいましょう。
面接で診療方針や待遇を再確認する
面接に進んだら、診療方針や待遇を再度院長に確認しましょう。特に待遇に関しては聞きにくいかもしれませんが、転職後のミスマッチを防ぐためには非常に重要な点です。下調べや見学でわかった診療方針や待遇を再度確認し、了承したうえで転職を決めましょう。
面接で最終確認を怠らないことが、働きやすい歯科医院への転職につながります。
歯科衛生士の資格や経験をそのまま生かせるおすすめの転職先
歯科衛生士が働く場は歯科医院だけではありません。下記のように、乳幼児の予防歯科に力を入れたい人には市町村の保健センター、高齢者の口腔ケアに携わりたい人には介護施設、一般企業で働いてみたい人には歯科関連の企業がおすすめです。
いずれも歯科衛生士の資格や経験をそのまま生かすことができます。
市町村の保健センター
歯科衛生士は市町村の保健センターで働くこともできます。その場合は公務員となるため、安定性や充実した福利厚生が魅力です。
乳幼児の歯科検診や歯磨き指導、フッ素塗布などが主な仕事のため、特に乳幼児の予防歯科に携わりたい人におすすめの職場です。
介護施設
介護施設で入居者の口腔ケアにあたる歯科衛生士もいます。高齢化の進行により、介護施設で働く歯科衛生士の需要はますます増えることが予想されます。
仕事内容は、入居者の口腔状況の観察や歯磨き、入居者や介護スタッフへの口腔ケアの指導などです。口腔機能が低下すると、誤嚥性肺炎や低栄養状態になることがあるため、介護施設における歯科衛生士の役割は非常に重要とされています。
歯科関連の一般企業
歯科関連の一般企業に転職するという選択肢もあります。歯科医院や上記のような臨床の場でなくとも、歯科衛生士として培った知識や経験は大いに生かせます。
仕事内容は、歯ブラシやフロス、スケーラーなどの商品開発・営業・販売や、各種セミナーの講師などが主です。なかには歯科医師や歯科衛生士向けのメディア運営や、歯科医院のホームページ作成、キャリアアドバイザーとして歯科衛生士への転職アドバイスを行っている人もいます。
このように歯科衛生士は、その知識と経験を生かして一般企業にも転職可能です。
歯科医院を円満退職する方法
歯科医院を円満退職するには、まず就業規則を確認します。そして決められた期日までのところで、休日前の診療後に申し出るようにしましょう。その際、退職理由は前向きなものにすると納得してもらえる可能性が高くなります。ここでもし嘘をつくと、歯科医師会などのつながりでばれてしまうため、絶対に避けてください。
引き止めにあったときは、次の職場や初出勤の日程がすでに決まっていることを伝えると効果的です。
就業規則を確認する
退職を決意した人はまず就業規則を確認し、それに従って退職を申し出ましょう。これは自身の仕事をほかのスタッフに引き継いだり、歯科医院側が人員の補充を余裕を持って行ったりするために大切なことです。就業規則がない場合でも、退職したい時期の1〜3ヶ月前には伝えるようにしましょう。
ボーナスの支給規定も要チェックです。退職の予定があるとわかってしまうと減額される恐れがあるため、しっかりもらえることを確認してから退職しましょう。
このように就業規則を確認し、それに従って退職すると円満退職につながります。
休日前の診療後に申し出る
退職を申し出るベストなタイミングは、休日前の診療後です。そうすれば申し出たあとに休日を挟むため、双方が状況や気持ちを整理できます。
朝に伝えると、その日1日院長の様子をうかがいながら、重たい雰囲気で働かなければならなくなってしまうため、間違っても朝に伝えることだけは避けましょう。
退職を申し出るタイミングは非常に重要です。休日前の診療後というベストタイミングで申し出ましょう。
嘘はつかず、前向きな退職理由にする
退職理由は嘘をつかず、前向きなものにしましょう。嘘をついてほかの歯科医院に転職した場合、歯科医師会などで院長同士のつながりがあるとばれてしまいます。一方、前向きな退職理由だと納得してもらいやすくなります。
「審美歯科に興味がある」「スキルアップのために勉強する時間が欲しい」といったポジティブな理由にするのがおすすめです。「引っ越しをするため」などの理由も納得してもらいやすいですが、それが嘘であり、かつ近くの歯科医院に転職した場合、仕事上のつながりですぐにばれる恐れがあるため注意しましょう。
このように退職するときは嘘をつかず、前向きな退職理由にすることが大切です。
引き止められたら転職先が決まっていることを伝える
退職を申し出たときにもし理不尽な引き止めにあったら、次の職場がすでに決まっていることを伝えましょう。そうすることでほとんどの院長は引き止めるのをあきらめます。
「そんなんじゃどこに行ってもやっていけない」「歯科医師会で言いふらすぞ」などと、脅しのようなことを言われたときは「次の職場と初出勤の日程が決まっています」と、きっぱり断りましょう。同時に退職願を提出し、意思が揺るがないことを伝えるのも効果的です。
理不尽な引き止めにあったら、このように転職先が決まっていることを伝え、辞める期日を約束してもらいましょう。
まとめ
この記事では、歯科衛生士を辞めたくなる理由やその対処法、働きやすい歯科医院やその選び方、おすすめの転職先や円満退職する方法などをお伝えしました。
歯科衛生士は新卒であっても転職しやすい職業であると同時に、一生使える国家資格でもあります。焦らず、自分のタイミングで働きやすい職場を探してみてください。